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東京大学と京都大学は様々な分野に有為な人材を送り出し、日本社会をリードしてきた「両雄」といえます。両大学の名前には特別な響きがあり、大学進学を志す高校生たちにとって羨望の対象であることは今も昔も変わらないのではないでしょうか。
大学受験に際しては、受験生個々人が自分の学力や学びたい分野、家庭の経済状況など様々な要因によって志望・受験校を決めることになりますが、地域性の影響も大きいように感じます。この記事では、各都道府県の優秀な高校生たちは東大・京大のどちらにより多く進んだのか、過去約70年分のデータから読み解きたいと思います。
両大学には若干の難易度差があり、「志向」だけでは説明できない部分もあるかと思います。また、近年では成績優秀者の進学先として医学部が人気であり、加えて海外大学へ進学する高校生も増えているとのことで、東大か京大かという軸だけでは説明できない進学動向もあるでしょう。そうした限界も踏まえたうえでご覧ください。

調査内容と方法
1953年から2019年まで67年分について、両大学の出身高校別合格者数を調査し、学校が所在する都道府県別に累計合格者数を集計しました。
東大・京大累計合格者数の合計のうち、東大が占める割合を「東大率」と定義します。東大率が高い都道府県を「東大志向が強い」とこの記事では判断することにします。京大についても同様です。
主な参考文献は以下の通りです。
『東京大学新聞』『京都大学新聞』『蛍雪時代』『サンデー毎日』『週刊朝日』『大学入試全記録「高校の実力」』
このほか各学校のホームページ・学校史・同窓会誌等も参考にしました。
大学が合格者氏名を公表しなくなった2000年以降を中心に出身高校の判明率が100%に満たず、データは不完全なものです。ただし、67年間の出身校判明率は東大99.4%、京大98.8%であり、大勢に影響はないものと思われます。
東大については1950年以降の出身校データが揃っていますが、京大については1950年はデータを入手できず、1951年と1952年は合格者少数校が不明です。そこで、両大学の累計合格者数を比較するという記事の趣旨を踏まえて、1952年以前については含めないことにしました。
1987年・1988年入試においては東大・京大を両方受験することが制度上可能であったため、W合格者が存在します。ですが、67年間の総合格者数に占める割合は小さいため、そのまま集計しました。
結果
累計合格者数による志向判断
各都道府県の東大率・京大率を一覧で示します。
東大志向が強い都道府県
最も東大率が高かったのは、東大のお膝元である東京都です。東大率は90%を超えており、京大の校風に憧れる、京大が強みとする学問分野を専攻したい、などの理由がない限り、基本的には東大しか眼中にないのかもしれません。しかし、近年では京大合格者数が明らかに増えており、今後の動向に注目されます。これに続くのが東京都に隣接する神奈川県と埼玉県でした。首都圏では、一橋大・東工大・早大・慶大など国内トップクラスの学校が他にもあることから、京大率が低めに出ているとも考えられます。
東北地方の各県はいずれも東大志向が強いとみられますが、特に東大率が高かったのが岩手県です。東大合格者が多いというよりは、京大に進む人が67年間で227人とかなり少ない印象です。
他に特筆すべきなのは鹿児島県でしょう。東大率が高いことに加え、人口の多い福岡県を合格者数で上回っています。いうまでもありませんが、これはラ・サール高校の存在が大きいといえます。しかし他の学校も東大合格者の方が多い傾向にあります。
京大志向が強い都道府県
京大率が最も高かったのは、滋賀県でした。「東大合格高校盛衰史」を読んでいて滋賀県の東大合格者が少ないことには気づいていましたが、その背景には極端なほどの京大志向があるようです。この傾向について、滋賀県出身で東大に進まれた方が記事にされていますので、是非お読みください。
次いで京大率が高かったのが、京大の地元・京都府、さらに大阪府でした。いずれの府においても国私立高校に比べて府立高校の京大志向が強いようです。
京大志向が強い近畿地方の中で、比較的東大率が高くなったのが兵庫県です。公立私立問わずほとんどの学校で京大合格者の方が多くなっていますが、灘高校(東大6,160人、京大2,553人)と白陵高校(東大849人、京大818人)の2校のみが東大合格者の方が上回りました*1。兵庫県の東大志向が強いというよりも、近畿地方を中心として東大志望者を集める灘高校が兵庫県にあったからこのような結果になったと考えるべきでしょうか。
東大・京大志向の地域性
各都道府県の進学志向を地図で表現しました。黄色は東大率が高い都道府県、青は京大率が高い府県を示します。色は6段階で表現されており、東大(京大)率が75%以上であれば濃い色、50%以上52%未満であれば薄い色で示されています。
全体としては地理的に近い方に進む傾向が強いようです。関東地方や東北地方は東大志向の都県が、一方で近畿地方・中国地方は京大志向の府県が並びます。
この中で注目されるのは中部地方と九州地方です。
甲信越地方はいずれも東大志向。北陸地方は富山県では東大、福井県では京大を志向する傾向があり、石川県では京大がわずかに上回っています。北陸新幹線開業により、東京方面とのつながりが強まる中、今後の動向が気になります。東海地方は愛知・岐阜・三重の三県は京大志向ですが、静岡県はわずかに東大が上回りました。
九州地方は福岡県で両大学拮抗しているのを除けばいずれも東大志向が強いようです。一九州民の予想として、関門海峡を越えるのであれば、関西でも関東でも然程こだわりはないということかと考えましたが、実際のところどうなのでしょう。各高校の進路指導の影響もあるかもしれません。
四国地方の中で唯一、愛媛県は東大率が京大率を上回りましたが、これは愛光高校の東大志向が強いためであり、同校以外は京大合格者が多い学校が目立ちます。
このように、県境をまたいで生徒を集めるような有力校が存在する場合、必ずしもその学校がある県出身の高校生が東大(京大)を志望する傾向が強いとは言えない可能性があることに注意しなくてはなりません*2*3。
合格率を考慮した志向判断
これまでの検討では、東大・京大の累計合格者数についてどちらが多いかというごく単純な基準で東大志向・京大志向を判断しました。しかし、合格者の絶対数や各都道府県の高校生数を考慮していない点に問題があります。そこで、各入試年について各都道府県の東大(京大)合格者数を高等学校の卒業者数*4で除して求めた「東大(京大)合格率」をもとにさらなる検討を行います。下図に示すのは64年間*5の平均値です。
東大合格率が高い都道府県
東大の合格率トップはやはり東京都で、他県を大きく引き離しています。1960年代までは都立高校の天下でしたが、それ以降は男女別学の私立高校が合格者ランキング上位に名を連ねています。最近10年に限定すれば合格率は1.0%を超えており、100人に1人以上が東大に進む計算になります。
これに続くのが栄光学園高校、聖光学院高校など強豪ひしめく神奈川県、ラ・サール高校のみならず鶴丸高校の存在も大きい鹿児島県でした。
4位になったのは富山県。受験に関して有力な私立高校が長らくなかった中で、富山中部高校・高岡高校・富山高校の公立御三家が高い実績を残しています。富山に限らず北陸の各県(石川県=9位、福井県=12位)はいずれも高い合格率を示しており、教育熱心な土地柄がうかがえます。
5位兵庫県は灘高校、6位奈良県は東大寺学園高校と西大和学園高校、7位愛媛県は愛光高校がそれぞれ顕著な合格実績を残している影響が大きいとみられます。
8位は香川県でした。京大志向が強いと判断していましたが、高松高校と丸亀高校を中心として東大にも多数の合格者数を送り出しており、合格率で全国上位となりました。
京大合格率が高い都道府県
京大合格率で首位になったのは地元京都府でした。洛星高校・洛南高校の累計合格者数が突出しています。長らく低迷していた府立高校も、府内全域から生徒を集める学科を設置するなどして巻き返しています。
2位は奈良県。東大に続き全国上位にランクインしました。東大に関しては前述の二校の存在が大きいですが、京大に関しては奈良高校や畝傍高校など公立高校の実績も目立ちます。
続いて3位大阪府、4位滋賀県、5位兵庫県と近畿の府県が並びます。滋賀県は東大合格率は46位ですが京大合格率でこれほど上位に入るわけですから、やはり京大志向の強い土地柄だといえるでしょう。
6位福井県と7位香川県は東大合格率でも上位に入っています。福井県では藤島高校が累計合格者数で他校を大きくリードしており、高志高校、武生高校がこれに続いています。
8位は和歌山県。古くは桐蔭高校、近年では智辯学園和歌山高校が県内の実績をリードしています。智辯和歌山といえば高校野球のイメージが強いですが、近畿地方でも有数の進学校と認識できている人は日本国民のどれほどいることでしょうか。
合格率を見てみると、「東大志向が強い」と判断していた県の東大合格率が、「京大志向が強い」県の数値を下回るという例が数多くみられます。今回は「志向」について東大・京大のどちらに合格した人が多いかという安易な定義を行いましたが、データを揃えてもう少し説得力のある考察をしたいものです。
結びに
ここまで都道府県ごとの進学志向を東大・京大に限定してみてきました。
東大・京大の累計合格者数の比較では、地理的に近い方へ進む傾向がみられ、例外的なのが九州地方でした。また、合格率を加味すると、奈良県・兵庫県・香川県のように東大・京大の双方に高い実績を示す県もある一方で、逆に双方への実績が少ない県もあり、地域による差異が認められました。
こうした格差が現れる要因は、単に上位層が薄いからとは断定できず、医学部志向が強い、現役志向で近隣の旧帝大に進む生徒が多いなど様々予想されますが、このデータからではわかりません。今後の課題とします。
また、今回の記事では累計合格者数や平均合格率で判断しましたが、これでは年代による変化がわかりません。都道府県ごとに学校の新設や制度変更などを背景として大学の志向にも変化があるようです。愛媛県の事例で示したように、都道府県内でも高校ごとに違いがあります。これらについては都道府県ごとに記事にしていければと考えています。
*1:各高校別の内訳には1952年以前のデータを含みます。
*2:愛光高校生徒の出身地統計を持っているわけではないので断言はできません。
*3:九州地方に注目すると、福岡県は久留米大学附設高校を除くと京大志向が強く、長崎県と鹿児島県はそれぞれ青雲高校、ラ・サール高校を除いてもやはり東大志向が強いという結果になりました。
*4:データの出典は文部科学省の「学校基本調査」。全日制・定時制卒業生のみで、通信制卒業生は含みません。18歳人口ではありませんから、中卒者や大検・高認合格者を含みません。
*5:1953年、1954年、1967年の卒業生数データが得られなかったためです。東大は1969年の入試が中止されましたから63年間の平均となります。