東大合格者に占める公立高校出身者の割合【科類別データ付】

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大学合格者数を取り上げた雑誌などを読むと「公立復活」の見出しをよく目にします。確かに、東の日比谷、西の堀川など一時期低迷していた公立名門校が難関大合格者数を大きく増やしている例は確認できます。ただ、東大合格者数に関していえば、依然として私立高校・国立高校が全体として強いという印象を拭えません。

そこで、東大合格者の出身高校について、国立校・私立校・公立校で分けてみると、どのような勢力図になるのか、その勢力図がどのように変化してきたのかについて見ていきたいと思います。記事の後半では特に公立高校の占有率に着目します。

 

国立vs私立vs公立勢力図(1950年→2019年)

まずは戦後の第2回新制大学入試*1から2019年入試までの、国立・私立・公立の勢力図を見ていきます。1950年に検定・不明等が多いのは、旧制高校出身者が含まれるためです。1953年については1名校不詳、このほかにも若干の未判明があります。

下のグラフは水平方向にスクロールできます



 

各年代の情勢を合格者数トップ10の学校とともに見ていきましょう。

50年代
60年代
70年代
80年代
90年代
00年代
10年代
順位 設置 学校名 所在地 共別 合格者数 検索用
1 日比谷 東京 1063  
2 新宿 東京 639  
3 戸山 東京 634  
4 小石川 東京 580  
5 西 東京 569  
6 両国 東京 449  
7 筑波大附 東京 414  
8 麻布 東京 355  
9 小山台 東京 346  
10 湘南 神奈川 319  

1950年代は東京とその周辺県にある公立校が上位を占め、全国的に見ても公立高校が圧倒的に優勢でした。日比谷、新宿、戸山、小石川、西、両国がトップ10の常連になっています。国立・私立に目を向けると、東京教育大附(筑波大附)や「男子御三家」の中で麻布が都立校に伍して多数の合格者を出している程度で、灘、栄光学園、ラ・サールなど今に続く名門私立校もこの時点ではそれほど目立ちません。

順位 設置 学校名 所在地 共別 合格者数 検索用
1 日比谷 東京 1430  
2 西 東京 1096  
3 戸山 東京 950  
4 新宿 東京 781  
5 筑波大附 東京 664  
6 麻布 東京 629  
7 小石川 東京 626  
8 兵庫 614  
9 両国 東京 487  
10 筑波大附駒場 東京 484  

1960年代に入ると、開成、武蔵のほか先述の灘、栄光学園、ラ・サールなどが伸ばし、私立高校の割合が大きくなっています。とはいえ、64年に日比谷が過去最高の193人を記録するなど都立校も相変わらず強く、首都圏以外で有力な私立校がそれほどないこともあって公立の優位は変わりません。

順位 設置 学校名 所在地 共別 合格者数 検索用
1 兵庫 1223  
2 筑波大附駒場 東京 1121  
3 開成 東京 952  
4 筑波大附 東京 876  
5 東京学芸大附 東京 870  
6 麻布 東京 869  
7 ラ・サール 鹿児島 791  
8 湘南 神奈川 667  
9 西 東京 645  
10 武蔵 東京 608  

1970年代は国立校の増加が目立ちます。この背景として「東大合格高校盛衰史」には、国立高校附属中学校の生徒が学校群制度の始まった都立高校を敬遠して、そのまま国立高校に進むようになったことが記されています。一方で、50年代と60年代で合格者数トップの日比谷が70年代ではトップ10圏外になっています。私立校もシェアを増やし続け、広島学院、愛光、久留米大学附設など全国各地の学校が進出しました。

国立校の合格者数推移をみると、1973年が明らかに突出しています。この年は東京教育大附駒場(筑波大附駒場)が135人でトップ、これに続いて3位東京学芸大附が108人、4位東京教育大附(筑波大附)が106人となり、在京の国立3校が100人の大台に乗せました。1970年代初頭においては都立校が合格者数を減らす一方で、一部の学校*2を除き私立高校も東大合格校としての地位を築いておらず、そうした過渡期だからこその結果といえましょうか。

順位 設置 学校名 所在地 共別 合格者数 検索用
1 開成 東京 1450  
2 兵庫 1239  
3 東京学芸大附 東京 1018  
4 ラ・サール 鹿児島 995  
5 麻布 東京 925  
6 筑波大附駒場 東京 900  
7 武蔵 東京 729  
8 栄光学園 神奈川 664  
9 筑波大附 東京 609  
10 浦和 埼玉 553  

1980年代に入ると私立校の躍進が一層目立ち、1984年に初めて公立校のシェアが5割を割り込みました。桐朋、駒場東邦、桜蔭などの進出が顕著で、桐蔭学園も驚異的な伸びを示しました。80年代の10年間合格者数でトップ10に入ったのは公立では浦和が唯一でした。隣県千葉でも県立千葉が盤石で、地域によっては公立がまだまだ強かったようです。

順位 設置 学校名 所在地 共別 合格者数 検索用
1 開成 東京 1801  
2 兵庫 1030  
3 麻布 東京 1024  
4 東京学芸大附 東京 973  
5 桐蔭学園 神奈川 914  
6 筑波大附駒場 東京 862  
7 ラ・サール 鹿児島 809  
8 桜蔭 東京 649  
9 栄光学園 神奈川 623  
10 武蔵 東京 614  

1990年代も私立校の勢いは止まりません。海城、巣鴨、聖光学院のほか、西日本の洛南も上位の常連になっています。各年の合格者数ランキングを見ると、トップ20は私立校・国立校がずらりと並び、公立校は浦和と千葉、90年代後半になると両校に代わって岡崎が入る程度です。大都市圏に限らず、三重では高田、和歌山では智辯学園和歌山、長崎では青雲がトップ校の地位を確立し、全国的に私立優位の傾向が強まりました。

順位 設置 学校名 所在地 共別 合格者数 検索用
1 開成 東京 1689  
2 兵庫 966  
3 筑波大附駒場 東京 923  
4 麻布 東京 878  
5 東京学芸大附 東京 791  
6 桜蔭 東京 695  
7 ラ・サール 鹿児島 572  
8 栄光学園 神奈川 528  
9 海城 東京 508  
10 駒場東邦 東京 506  

2000年代では私立校のシェア拡大が一段落した印象を受けます。公立高校の通学区廃止、総合選抜制度廃止などにより、名門公立高校が合格者を増やした例がみられます(日比谷、大分上野丘など)。こうした影響もあってか、00年代末期にかけて公立校のシェアがやや増えています。 とはいえ、80年代、90年代と築いてきた東大合格校としてのブランドはなかなか揺らぐことはないのか、合格者の多い首都圏において私立校の強さは相変わらずで、全体としては私立優位が続いています。

順位 設置 学校名 所在地 共別 合格者数 検索用
1 開成 東京 1748  
2 筑波大附駒場 東京 1038  
3 兵庫 958  
4 麻布 東京 883  
5 聖光学院 神奈川 703  
6 桜蔭 東京 676  
7 駒場東邦 東京 627  
8 栄光学園 神奈川 604  
9 渋谷教育学園幕張 千葉 569  
10 東京学芸大附 東京 542  

2010年代に入ると、00年代に開校した公立中高一貫校が伸びて公立校がシェアを奪い返すか…と思いきや、私立校が00年代後半に減らしたシェアを取り戻しそれ以降は横ばいとなっています。これまで公立が強かった埼玉で栄東と開智が浦和に迫り、千葉では渋谷教育学園幕張が驚異的な伸びを見せるなど、首都圏で私立校が躍進、あるいは実績をキープしたことが要因でしょうか。「東大のローカル化」が指摘されている昨今、地方における公立復権による影響は微々たるもので、首都圏エリアで第二の日比谷のような学校が現れない限り、私立優位が揺らぐことはないのかもしれません。

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公立高校の科類別占有率(1962年→2019年)

今度は科類別の統計を見ていきます。下に示すグラフは公立高校出身の合格者数が全合格者数に占める割合の推移を科類別に示したものです。データは現行の6科類体制となった1962年以降に限定しています。1976年と2000~2005年について科類別の数値が極端に低くなっていますが、これは合格者少数校の合格科類が不明なためです。

下のグラフは水平方向にスクロールできます



 

先にも述べたように2000年ごろまで公立高校の占有率は減少し続け、それ以降は多少の増減はありながらも3割台半ばで推移しています。科類別に見てもそうした全学の傾向と大まかに合致する形になっていますが、科類によって公立高校シェアの多寡が確認でき、その傾向は1970年代から概ね一貫しているようにも見えます。

 

公立高校が少ない科類の筆頭は最難関の理Ⅲです。中学受験でトップクラスの難関校に入り、そのうえ中高6年間も鉄緑会でみっちり勉強する、そのような首都圏・関西圏の生徒たちに対抗するのは並大抵のことではないでしょう。

次に公立高校のシェアが低いのが、多くの年で文Ⅰとなっています。文Ⅰといえば法学部に進み、卒業後は国家の中枢で活躍するというまさにエリートが通る道という印象ですが、国私立高校出身者が高い割合を占める傾向が続いています。この背景には何があるのでしょうか。

  • 国を動かしたいという高い意識を持った(あるいはそのような教育を受けている)子供がことごとく中学受験をして国私立の学校に進んでいる
  • 優秀な生徒たちと机を並べるうちに自然と文Ⅰ志望になる
  • 面子的にとりあえず文系最難関の文Ⅰを受けている

東大とは全く無縁だった者が予想できるのはこの程度ですが、実際にそのようなコースを進まれた方のお話を伺ってみたいです。このほか、文Ⅱも全学の数値より公立高校の占有率が低めに出ています。

 

一方で、文Ⅲ理Ⅱは長い期間にわたって公立高校が比較的進出している科類であるといえるでしょう。難易度の観点で高校や予備校からそのように指導を受けるのか、その学問系統に興味を持つ人が多いのか*3、気になるところです。

理Ⅰについても、公立高校のシェアが全学平均をやや上回る年が多いようです。理Ⅰは定員が1100人以上であり国公立大学の一つの募集単位としては非常に多くなっています。有名校から何十人もの合格者が出る一方で、地方の公立校からその年に出た唯一の合格者が理Ⅰであるパターンをよく見る気がします(あくまでデータ収集中の印象で、検証はしていません)。

 

結びに

2020年度より大規模な大学入試改革が始まりますが、それとともに東大合格者の出身高校にもどのような変化が生じるのか、注目していきたいと思います。また、東大特有の傾向も少なからずあると思いますので、京大など他の大学についても見ていきたいと考えています。

 

 

*1:第1回は1949年に実施されましたが、資料不足のため調査対象から除外しました。

*2:開成・麻布・武蔵のいわゆる男子御三家など

*3:文Ⅲ=文、教育など/理Ⅱ=農、薬など